君と永遠を語ろう












「クリーオウ」

「何よ?」

ごほ、とまだ時折むせ返るクリーオウを見つめて名を呼んだ。
酷く真剣な音を含んだ様子に、クリーオウは怯える様子は見せないものの
たたずまいを直してこちらを見てくる。

「なんで来た、とかどうやって、とか、事の重大さがわかってるのか、とか」
「なによ」
「さっき、俺も言ったが、そんな事はどうでもいいんだ。旅ってのはどっちみちそんなもんなんだ」

オーフェンの言うことは正しい、のだと思う。まだ海水を飲んだり、
乗り込んだと思ったらおかしな人々がたくさんいるせいで、なかなかまともな思考が働こうとしないが。

いきなり船に乗り込んだケモノと金髪の少女に、大概興味を失ったのか、
他に忙しいからなのか−大半の乗組員は、そうなのだろう−すでに2人に近寄るものは誰もいなかった。
今はオーフェンとクリーオウが二人でただ景色として流れる海面を静かに見つめていた。
離れた大陸も、もう見えない。見えないのは新しい大陸も同じ。

いつまで続く旅なのか、むしろ着いてからだって問題が山盛りだろう。
今から陰欝な気分になるが、そんな事を考えては暗くなるだけだ。
旅立ちというものは、この海辺の光のように、新しい希望と共にあらねばならない。
しかし、

「憂鬱だな、正直」
「そう?楽しいじゃない」
そうキッパリといいのけ、クリーオウはレキの背中を撫でた。
そう、いつもこの少女は無理難題をいとも簡単な事のように言ってのける。
だからと言って、行動が伴うかというとまた別の話になるが、それは自分がフォローすればいいことだ。
むしろ、助けられている事も多いのかもしれない。

色々あった為か、お互い少し変わったように感じる。
しかし、…根っこの本質は変わらないだろう。まぁ、意識ができたとしても、なかなか変えられるものではない。

彼女が、自分の目の届く範囲にいて−いや、たまには急にいなくなり、予想もつかないところから出てきたりして−
そうやっていけたなら。


「クリーオウ、結婚しよう」
「…………は?」


驚きすぎて、金髪碧眼の端正な顔がぐにゃりと崩れた。
それに満足してぽんぽんと頭を叩いて続ける。
まぁ、言った本人も多少驚いているのだから、仕方のない事だろう。

「タフレムでの結婚制度っていうのは、実質どうなんだか。
まぁ、魔術士ってのは結婚の形態にはあまりこだわらんからな。
それでも、目指す土地についたら結婚制度は法的に作るつもりでいる。
それの方がいいんだろうしな。整備してくってのは、実際面倒くさいそういう書類も必要になってくるってことだ」

「……つまり、最初の実験台ってこと?」

クリーオウは、きっ、とこちらを睨んだ。
そういうつもりは全くなかったが、彼女はそれで合点がいったのかぶつぶつと、
うっすら聞こえる声で毒づいている。

やっぱりやめておいた方が懸命なのか、と一瞬自分の胸に問い掛けてから虚空を見上げた。

どうも説教くさくなったり、回りくどくなるのは魔術士の性分らしい。
自分の考えを、素直に話すというのは苦手になってしまった。昔の名前を捨ててからは特にそうだと感じる。

さ迷わせていた視線をクリーオウへ戻し、確認の意味で口を開く。

「これから、いいことばっかりじゃない。カーロッタ派とはかなりの長い期間争う事になるはずだ」

急に真剣な口調になったオーフェンに、クリーオウも視線を戻してきた。

「しかも、派手にドンパチならまだいい。頭を使った奇襲やら、闇討ちやらそんな事になるやもしれんし、
カーロッタ派だけで収まる気もしてない」

だから、と呟いて何気なく手を上に上げる。
…だから?
自分は何を伝えたかったのか。

だから、帰れ?

いや、違う気がする。

「そんなの、いいじゃない」

クリーオウは、けろっと言ってのけた。
その表情は虚勢を張っている訳でなく、嘘を言っている訳でもない。

「危なくなったら、オーフェンが吹っ飛ばしちゃえばいいのよ」

いつもそうでしょ?
と。
簡単な事じゃない、と瞳で示してくる。
しかし、クリーオウも暴力だけでは済まない相手だと言う事はわかっているのだろう。
彼女が1番それを経験してきたはずだ。
それでも彼女は簡単なこと、と言ってのける。

「それに、」
「ん?」
「わたしだっているし」

当たり前の事、と言わんばかりに胸をはった。

「クリーオウ」
「なぁに、オーフェン」

昔と変わらない呼び名。
昔と言っても、たった1年たったかたたないかの時間だが、彼女にそう呼ばれるのは酷くなつかしい気がした。

真っ直ぐな瞳でこちらを見てくるクリーオウを、そっと抱き寄せた。
温かい。
いつも強かった彼女の思い出しかないが、こんなに華奢だったのか、と改めて気付く。

クリーオウは、びっくりした顔の後、ぽんぽんとオーフェンの頭を撫でた。

「きっと、大丈夫よ。私たち、一緒なら何とかなるんだから」

その言葉が、誰に言われた言葉よりも心強かった。
自分でも気付かない内に少しづつ無理をしていたのかもしれない。

「お前がいて、お前に似た娘とかがいて、レキがいて、たまにはマジクがいたり、
あのお騒がせ姉妹が何かしでかしたり」

クリーオウは最後の部分が引っ掛かったらしく眉根を寄せていたが、気にせず続ける。

「そんな場所があったら、全ての事がなんだか上手く行く気がするな」
「そうね、そんなものかもね」
妙に悟ったような口調で、クリーオウはそう答えた。
体をゆっくりと離して、また海を見つめる。どうせもう少しで船員に呼ばれる頃だろう。

「オーフェン。」
「なんだ」
「これからも、よろしくね」

いつだか、前に聞いた事のある台詞だったが。
それは、もう遠い記憶の彼方だ。











「母さんのが男前よねーそれに比べて父さんだめだめですー」

昔の父と母の話を聞き終わってから、ね?と妹に同意を求めるが次女のエッジは興味がないとばかりに、何も答えない。
そんなことはいつものことなので、長女のラッツベインは気にもせず母親に向き直った。

「父さん、家だといかにも弱っちい、って感じなのに、外だとえっへん、って感じでこのへんがもぞもぞっとするですー」
「ふふ、それはわたしもよ」

母親は楽しそうに笑ってから、でも、と付け加える。

「昔はあんな笑顔できなかったんだから。いつもむっつり顔で」
「うわぁーたまに今でもむっつりな顔してますけどー」
「今より、ずっとひどかったのよ」

エッジも意外そうに母親の顔を見た。
彼女は、娘の視線を集めながら、にこにこと笑う。

「でも、今の方が」
「のほうが?」
「ずっと、彼らしい」

なぜかラッツベインがそれを聞いて目をハートにしている。
するとエッジがすっ、っと立ち上がった。

「あぁ、帰ってきたのね」

エッジがあの顔で玄関へ行くときは、父親が帰ってくるとき。毎日、そうやって出迎えている。

「あの子は父さん命!だからー。へたすると危険ーなくらい大好きだものー」
「あの子が1番彼に似てるものね」
「むっつりやぐにゃり好きも、きっと似たんですー」

ラッツベインがそう呟くと、エッジはさっと戻ってきて頭を一発殴ってから、また玄関へ向かった。
その様子を見ていた彼女はくすくすと笑いながら、玄関へ向かう。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「俺の話、してなかったか?」

帰ってくるなりその一言。どこまで地獄耳なのだろう、と彼女はさらに苦笑して、上着を受け取る。

「少し昔のお話。」

彼女にそう笑顔を見せられては、それ以上何も聞けなくて。
くしゃくしゃと自分の頭を掻きながら、彼は声を紡ぐ。

「クリーオウ。」
「なぁに」
「ありがと、な」

呼ばれた名前と、小さい声で呟く一言。
そして、昔を少し思い出す顔で、真っ直ぐに目を見てさらに告げてくる。

「これからも、よろしくな」

畏まった様子に、どこか可笑しくなってクリーオウは声を上げて笑った。その様子に、
オーフェンはふて腐れるようにぷい、と顔をそらす。

その視線を追い掛けるように回り込んで、今度はクリーオウが告げた。

「昔のオーフェンも、今のオーフェンも、」
「そんなに変わったか?」
「うん。180度大回転。」
「180度……」
そんなに、と少しショックを受けているらしいオーフェンに笑いかける。
娘達は食事が食べたいのか、とっくに奥へ引っ込んでいた。
クリーオウは、彼の手を握って、すぐに離してから告げる。ずっと思っている、このことを。


「いいじゃない、わたしは昔も今も、しあわせよ」





はぁぁぁぁぁーーー!! 久しぶりに秋田禎信BOXを読んで、オークリ熱再発。
もえ。もえだよこのカップルッッ!!!

ツンツン(性格)黒髪男と、金髪長髪ヒロイン。
ヒロインが力を求めてて、力になりたい!という強い気持ち。
私の一番好きカップル〜vv
関係的にはイチオリに少し似てるかも。

なんかもう萌えだけで書き綴ったので、色々矛盾はあるし、甲斐性なしが意外と甲斐性あるし・・・
でも、私的には意外と甲斐性なしは、ちゃんとクリにプロポーズ(まがい)のことはしたのはないかと。
ちょっとデキ婚くさいけど。

ちなみに、最後の方は「約束の地で」をベースですが、イメージ的にはラチェが生まれる前。
とにかくクリが幸せならそれでいい、という話。
話の中ではいいお母さん、だったけど、それまでは色々あってクリ大活躍だったんだろうな〜
「魔王のボディガード」だしvv
マジクがきた時とか、コルゴン(あえて)の話とか。。。
妄想は尽きない。